大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成8年(ネ)2683号 判決 1998年1月30日

控訴人(原告) 株式会社コンフェクショナリーコトブキ

被控訴人(被告) 株式会社京都コトブキ

主文

一  原判決を取り消す。

二1  被控訴人は「京都コトブキ」の営業表示を使用してはならない。

2  被控訴人は、包装その他の印刷物から「京都コトブキ」の表示を抹消せよ。

3  被控訴人は、控訴人に対し、京都地方法務局平成二年四月二日受付をもってした被控訴人の設立登記中、「株式会社京都コトブキ」の商号登記の抹消登記手続をせよ。

三  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  主文同旨

2  仮執行宣言(主文第二項1、2、第三項につき)

二  被控訴人

本件控訴を棄却する。

第二当事者の主張

一  原審における当事者の主張

原判決三頁三行目から一五頁九行目までに記載されているとおりであるから、これを引用する(但し、原判決八頁六行目の「不正競争防止法二条一項一号」の次に「、三条」を加える。)。

二  当審における当事者の主張

1  控訴人の予備的請求原因(原産地等誤認惹起行為)

(一) 控訴人は、昭和二二年三月に創業され、同四二年一〇月二三日に、菓子、パン、冷菓等の製造、加工、販売等を業として設立された会社であるが、年商は平成四年度には二一五億円に達し、京都地区の二四店舗を含み、店舗数も関東、関西を中心に約五三〇店舗を有する日本有数の菓子営業者であり、一方、被控訴人は、平成二年四月二日、本店を京都市山科区小山中ノ川町一三番地、商号を「株式会社京都コトブキ」、営業目的を観光土産品の販売等として設立され、この商号を用いて、京都地区で菓子を販売している。

(二) 被控訴人は、「株式会社京都コトブキ」の商号のもとに、「京都の名菓栗づくし」「京都名菓抹茶の詩」及び「名菓京都もみじ饅頭」を販売している。

(三) 前項の商品は、被控訴人の親会社壽製菓株式会社(本店 鳥取県米子市)が製造しているものであるにもかかわらず、これらに接した一般需要者は、「京都の名菓」栗づくし、「京都名菓」抹茶の詩、「名菓京都」もみじ饅頭に加えて、「株式会社京都コトブキ」の商号のゆえに、あたかもこれらが京都で製造された京都名菓であるかのように誤認させられるものである。

(四) 前記(二)の行為は不正競争防止法二条一項一〇号に違反する不正競争行為であり、控訴人は同業者としてそのイメージを減殺されるに加え、その営業上の利益を害されるおそれがある。

(五) よって、控訴人は、予備的に、不正競争防止法二条一項一〇号、三条に基づき、被控訴人に対して、被控訴人の営業表示の差止、被控訴人商品の包装等の印刷物からの被控訴人の営業表示の抹消及び被控訴人の商号登記の抹消登記手続をそれぞれ求める。

2  予備的請求原因に対する被控訴人の認否及び反論

(一) 認否

(1)  予備的請求原因(一)のうち被控訴人に関する主張は認めるが、その余は不知。

(2)  予備的請求原因(二)は認める。

(3)  予備的請求原因(三)のうち壽製菓株式会社が「京都の名菓栗づくし」「京都名菓抹茶の詩」及び「名菓京都もみじ饅頭」を製造していることは認めるが、その余は争う。

(4)  予備的請求原因(四)は争う。

(二) 反論

「名菓」の語義につき、広辞苑第四版では、「名のある菓子、すぐれた菓子」と説明されている。そうすると、「京都名菓」とは「京都で名のある菓子、京都ですぐれた菓子」の意であると解される。また、「京都の名菓」とは「京都の名のある菓子、京都のすぐれた菓子」の意であると解される。

「名菓京都もみじ饅頭」は「名菓」と「京都もみじ饅頭」に分けることができ、「京都もみじ饅頭」は紅葉の名所が京都市及びその周辺に数多くある(例えば、嵐山、竜田川、貴船等)ため、それに因んで「京都もみじ饅頭」と命名されたものであるが、この標章を付した饅頭が京都市及びその周辺若しくは京都府で製造されるか、その原材料が京都市及びその周辺若しくは京都府で生産されるものと一般需要者の多くが認識しているとは到底考えられない。そうすると、被控訴人の使用している「京都の名菓栗づくし」、「京都名菓抹茶の詩」及び「名菓京都もみじ饅頭」なる標章は、いずれも、これらの標章を付した商品の製造地若しくは原材料の生産地が京都市及びその周辺あるいは京都府であるとの認識を一般需要者のうちの多くの者に抱かせるものとはいえず、したがって、被控訴人がこれらの標章を付した商品を販売する行為は不正競争防止法二条一項一〇号の原産地誤認惹起行為には該当しないものと思料される。

控訴人は「京都」なる表示が付加されていない「栗づくし」「抹茶の詩」及び「もみじ饅頭」なる各標章を使用して菓子類を販売しておらず、被控訴人が「京都」なる表示を「栗づくし」、「抹茶の詩」及び「もみじ饅頭」なる各標章に付加したからといってそのことによって控訴人との販売競争上優位に立つものではなく、したがって、被控訴人が「京都」なる表示を付加した前記各標章を使用することによって控訴人の営業上の利益が害されるおそれなど存しないことは明らかである(言い換えれば、仮に控訴人が不正競争防止法二条一項一〇号、三条に基づき被控訴人に対し差止めを求めるとしても、その差止対象となる行為は営業表示「京都コトブキ」の使用ではなく、標章「京都の名菓栗づくし」、「京都名菓抹茶の詩」、「名菓京都もみじ饅頭」の使用であるべきである。)。

第三証拠<省略>

理由

一  当裁判所は、被控訴人がその本店所在地において、看板に「京都コトブキ」という営業表示を掲げて使用し、その販売に係る菓子の包装箱の裏面又は側面に貼られた責任票に「京都コトブキ」あるいは「株式会社京都コトブキ」の営業表示を使用することは不正競争防止法二条一項一号の不正競争行為(周知表示混同惹起行為)に該当するものと判断する。その理由は次項以下に示すとおりである。

二  控訴人の沿革、控訴人の営業表示とその周知性、被控訴人の営業表示、両者の営業表示の類似性について

原判決一六頁一行目から二九頁五行目までに記載されているとおりであるから、これを引用する(但し、原判決一六頁二行目の「二一、」の次に「二五、」を挿入し、一九頁三行目の次に改行して「控訴人の平成七年度の総売上は一八五億円で、全国で一四位であり、うち洋菓子は一一五億円であり、その実績は八位である。」を加え、二一頁末行の「特徴のないものになっている。」を「左に傾いた斜体となっている。」と改める。)。

三  「混同のおそれ」の有無について

1(一)  不正競争防止法二条一項一号にいう「混同を生じさせる行為」には、他人の周知の営業表示と同一又は類似の表示を使用する者が、自己と右他人とを同一営業主体と誤信させる行為のみならず、両者間にいわゆる親会社、子会社の関係や系列関係などの緊密な営業上の関係が存するものと誤信させる行為(いわゆる広義の混同)をも包含し、かつ、右他人の周知の営業表示と同一又は類似の表示を使用する者と右他人との間に競争関係があることは必ずしも必要ではなく(最高裁判所昭和五八年一〇月七日第二小法廷判決・民集三七巻八号一〇八二頁、最高裁判所昭和五九年五月二九日第三小法廷判決・民集三八巻七号九二〇頁各参照)、また、商品の販売形態が異なるとしてもそのことによって当然に出所を混同誤認するおそれがない、とはいえないと解すべきである。

(二)  しかるところ、控訴人と被控訴人の各商品及びそれらの販売場所、販売形態など販売活動の状況についてみるに、原判決二九頁七行目から三三頁四行目までに記載されているとおりの事実が認められる(但し、原判決二九頁九行目の「六、」の次に「三二の1、2、三三の1ないし5、検甲五・七の各1ないし4、八の1ないし6、一〇ないし一三、一四・一五の各1、2、一八の1ないし16、一九の1ないし24」を挿入し、三〇頁三行目の次に改行して「右のほか、控訴人は、和菓子(「花野点」、和三盆糖入り「ようかん」など)も販売している(甲二三、検甲一八の1ないし16、一九の1ないし24)。」を加え、三〇頁六行目の「その商品の販売は、」から一〇行目の「考えられる)。」までを「主としてフランチャイズ・チェーン店で商品の販売を行っているほか、イズミヤ、ジャスコ、ライフ、ダイエー、イトーヨーカ堂、サティ、コープなどのスーパーマーケット内の店やドライブイン(洲本市納九七番地の一一所在)においても販売しており、ホテル内でも販売している。」と改め、三〇頁一一行目の「そして、原告のフランチャイズ・チェーン店は、」を「とりわけ控訴人のフランチャイズ・チェーン店について言えば、」と改め、三二頁末行、三三頁初行を削除する。)。

2  右認定のとおり控訴人の営業内容は洋菓子の販売を中心とするものであって、かつ、特約店あるいはフランチャイズ・チェーン店による販売活動を展開しているところ、「コトブキ」の周知性とも相俟って、その営業表示は洋菓子と強く結び付いて一般消費者や需要者に認識されているものと認められる。しかしながら、他方、右のとおりであるとしても、控訴人の商品といえば、洋菓子に限られ、和菓子は控訴人のものではないとの認識が一般消費者や需要者の間に深く、広く浸透しているということを認めさせるに足りる証拠もない。

そして、洋菓子も和菓子もともに同じ菓子類であって密接に関連する品目であるから、単に洋風か和風か、あるいは高級洋菓子か観光土産用の菓子かの差異で、両者の出所が混同されるおそれがないとも言い難い。また、これらの商品を購入する顧客についていうと、スーパーマーケットやフランチャイズ・チェーン店で購入する顧客と駅構内のキヨスクやホテルの売店で購入する顧客との間に、顧客層の差異と言える程の顕著な違いがあるとは解されず、購入の動機が多分に機会的なものに過ぎないという差異があるにとどまる(高級洋菓子店の顧客も、もとより旅行客の立場になり得るものであって、その日常の商品志向が固定していて土産物店で観光土産を購入する際にも右商品志向に左右されおよそ土産用として販売されている和菓子を購入する余地がないとは断定することができない。)と解するのが相当である。

3  そもそも不正競争防止法二条一項一号にいう「混同を生じさせる行為」とは、一般世人をして誤認する危険を生ぜしめることをいい、現実に誤認の事態が発生したことを必要としないと解すべきであるが、原審証人冨田則也の、現実の混同事例が存在した旨の証言(JR構内で販売されている被控訴人の商品を購入した知人が、被控訴人の商品の包装に貼付されている被控訴人の営業表示を見て、当該商品を控訴人の商品だと思い、控訴人はJR構内でも右商品を販売しているのかどうかについて問い合わせてきた旨の証言)も、消費者調査に関する調査報告書(甲二七)の内容(駅の売店で「京都コトブキ」製造の和菓子を売っているとき、その「京都コトブキ」という会社は「コトブキ」の子会社、あるいは、関連会社かもしれないと思うかという問いに対して、<思う>と回答したものが、二五九名中一七八名で、六八・七%を占めた旨の調査結果。)と照らして考えてみると、首肯し得ないではないというべきである。

4  被控訴人は「本店所在地において看板表示「京都コトブキ」を使用しているが、同所には倉庫(検甲一、二)があり、被控訴人の事務所はこの倉庫の中にある。被控訴人は店舗を回って注文を聞き、あるいは電話で注文を取り、倉庫のなかに在庫のないものについては米子の本社のほうに注文して、被控訴人の倉庫に一括して納入してもらい、被控訴人のほうで各店舗へ配送する。したがって、一般消費者はもちろん取引業者は被控訴人の事務所へ立ち寄ることはない。ワゴン車は被控訴人の倉庫から取引先店舗へ被控訴人の商品を運搬する際に使用されているものであって、「京都コトブキ」なる営業表示が一般消費者の目に触れることはない。また、被控訴人販売に係る菓子の包装された箱の裏面又は側面の責任票(検乙一二、二四)に一文字の大きさが約三ないし四ミリメートル四方で「株式会社京都コトブキ」なる表示が付されているが、その使用形態からすると、右営業表示もほとんど一般需要者の目にもとまることがないので、被控訴人販売に係る商品に接する取引者及び一般需要者において被控訴人と控訴人を同一営業主体又は両者の間に親会社、子会社の関係若しくは関連会社などの関係が存するものと誤認・混同するおそれはない。」と主張する。

しかしながら、本店所在地に看板として「京都コトブキ」なる営業表示を掲げたり、営業車にこれを表示している以上、その営業表示は被控訴人と取引する専門業者のみならず、潜在的な最終需要者の目に触れる機会があり、これが需要者の目に触れた場合、営業表示の混同誤認が生ずるおそれがあるというべきであるし、また、当該商品が人によって食されるものであることから、平均的な一般消費者や需要者を基準として考えてみた場合においても、店頭に置かれた商品を購入する際、責任票に記載された賞味期限ないし品質保持期限を確認の上購入するということも十分考えられるのであって、購入後商品の出所が他に告げられたり贈答に供されるということもあり得ることである。なお、責任票が食品衛生の観点から行政取締法規上その貼付が義務付けられているとはいえ、当該食品を販売する業者としての責任の帰属主体を明らかにすることによって間接的に購入意思決定の一要因にもなり得るものであるから、責任票の法的性格やそこに記載された営業主体を示す文字が小さいということのみをもって平均的な一般消費者や需要者による混同のおそれを否定する理由にはならないというべきである。

5  結局、被控訴人がその営業表示である「京都コトブキ」を使用する行為は、あたかも控訴人と業務上、組織上関連するものとの認識を一般消費者や需要者に生じさせ、営業主体の混同誤認を惹起するおそれがあると解するのが相当である。

さらに、不正競争防止法二条一項一号にいう混同の事実が認められる場合には特段の事情がない限り営業上の利益を害されるおそれがあるものというべきである(最高裁判所昭和五六年一〇月一三日第三小法廷判決・民集三五巻七号一一二九頁)ところ、本件において右特段の事情の存在を認めるに足りる証拠はない。

四  先使用の抗弁

控訴人の営業表示(「コトブキ」)は、前認定のとおり、遅くとも昭和四六、七年ころには京都市及び同府下において周知であったと認めることができるところ、被控訴人は平成二年四月二日に壽製菓株式会社の子会社として設立されたものであり、その営業表示である「京都コトブキ」は被控訴人の親会社が使用していた「壽製菓株式会社」ないし「壽製菓」との間に営業表示としての同一性ないし類似性があるとは認め難いから、被控訴人の抗弁は既にこの点において理由がないというべきである。

五  以上の次第であるから、控訴人の請求は理由があり、これと結論を異にする原判決は失当である。

よって、原判決を取り消し、訴訟費用の負担につき民訴法六七条二項、六一条を適用し、仮執行宣言は付さないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判官 小林茂雄 小原卓雄 高山浩平)

原審判決引用部分を組み込んだ本控訴審判決の事実及び理由

(注) 原審判決が、本控訴審判決により付加、訂正されている部分には傍線を、削除されている部分には(※)を付した。

事実

第一当事者の求めた裁判

一 控訴人

1 主文同旨

2 仮執行宣言(主文第二項1、2、第三項につき)

二 被控訴人

本件控訴を棄却する。

第二当事者の主張

一 原審における当事者の主張

原判決三頁三行目から一五頁九行目までに記載されているとおりであるから、これを引用する。

〔付加の上、引用された原審判決部分〕

一 請求原因

1  控訴人会社の沿革

控訴人は、昭和四二年一〇月二三日に、営業目的を菓子、パン、冷菓等の製造、加工及び販売等として設立された会社である。

控訴人の沿革は、昭和二二年三月に創立者細谷清が神戸市生田区北長狭通一丁目九番一号において、「寿本舗」として創業した店舗に始まる。その後、寿本舗は、昭和二四年一一月九日に株式会社(株式会社寿本舗)となり、昭和四六年四月一日には商号を「株式会社お菓子のコトブキ」に変更した。

そして、控訴人は、昭和五七年八月に、株式会社お菓子のコトブキの営業全部を譲り受け、現在に至っている。

2  控訴人の営業表示及びその周知性

(一)  控訴人の商号は、株式会社コンフェクショナリーコトブキであるが、営業表示としては、控訴人の前身会社である寿本舗の時代から、単に片仮名表記の「コトブキ」を使用しており、また他からも、「コトブキ」と称されてきた。なお、「コンフェクショナリー」の用語は、「菓子商」を意味する識別力のない用語であり、控訴人の商号の要部は「コトブキ」である。

(二) 株式会社寿本舗は、昭和四三年四月から、既存の特約店販売網を再編してフランチャイズシステムを採用し、商号を「株式会社お菓子のコトブキ」に変更した昭和四六年には、フランチャイズ店は、近畿地区を中心に二〇〇店を数え、また、この年京都地区に進出し、翌四七年には京都における店舗数は一二店になった。

その後、昭和四八年三月には関東地区に進出し、前記営業譲渡が行われた昭和五七年までに、中部地区、東海地区などにも営業展開をした。

そして、平成に入ると、控訴人の店舗数は関東、関西を中核として約五〇〇店舗となり、さらに平成三年一〇月には国際事業部を設立し、中国の北京、上海、天津等にも進出した。

(三)  控訴人は、昭和四三年ころから活発な宣伝活動を開始し、控訴人がこれに費やした費用は、同年当時約三億円であったが、以後増加の一途をたどっている。具体的にはテレビ、ラジオ、雑誌といった宣伝媒体を通じた宣伝、戸別訪問、イメージタレントを起用した全国各地のフランチャイズ店でのサイン会等の地域に根ざした宣伝、及び業界紙への広告掲載による業界向けの宣伝等である。

(四) その結果、前記(二)のフランチャイズ店販売網と相まって、控訴人の営業表示である「コトブキ」は、遅くとも昭和四六年ころまでには、全国的に需要者の間に広く認識されるところとなり、京都地区においても、同年ころには広く認識されるに至った。

3  被控訴人の営業表示

被控訴人は、平成二年四月二日、本店を京都市山科区小山中ノ川町一三番地、商号を「株式会社京都コトブキ」、営業目的を観光土産品の販売及び観光土産店の経営等として設立されたものであるが、現在、その本店所在地において、看板に「京都コトブキ」という営業表示を掲げて使用し、その販売にかかる菓子の包装に「京都コトブキ」の営業表示を使用し、また「株式会社京都コトブキ」の商号を使用している。

4 営業表示の類似性

控訴人の営業表示は、前記のとおり「コトブキ」である。

そして、被控訴人の営業表示(営業表示としての商号を含む。以下同様)の「京都コトブキ」のうち、「京都」は単に地名であっていわゆる識別力のない部分であり、その要部は「コトブキ」であるので、控訴人と被控訴人の各営業表示はその要部が同一であって、両者は類似している。

5 混同のおそれの存在

控訴人の営業表示である「コトブキ」は、前記2のとおり極めて高い周知性を有していること、控訴人と被控訴人の各営業表示は前記4のとおり極めて類似すること、控訴人と被控訴人は共に菓子類を販売しており競業関係にあること、控訴人は菓子類の製造販売業者として、経営の多角化を図っており、将来的には、被控訴人と同様に観光土産菓子を販売し、また、被控訴人と同様に観光ホテル等での販売をしないというわけではないことなどからすると、被控訴人が、菓子類を「京都コトブキ」の営業表示を用いて販売することは、控訴人または控訴人の子会社と何らかの関係のある営業主体の営業であると混同されるおそれがあるのみならず、商品の出所が同一ではないかと混同されるおそれがある。また、現に混同の事例も生じている。

なお、被控訴人は、被控訴人の営業表示は、包装箱の裏面に貼付された「責任票」にしか記載されておらず、その表示も小さく、認知されることは希であるなどと主張するが、賞味期限を確認するのはむしろ消費者の常識であり、混同を生じる恐れを否定する事情とはいえない。

6 営業上の利益を侵害されるおそれの存在

被控訴人がその営業表示を使用することが、控訴人の営業活動と被控訴人の営業活動とを混同させるものであることは、前記5のとおりであり、このため控訴人が営業上の利益を侵害されるおそれのあることは明らかである。

7 よって、控訴人は、被控訴人に対し、不正競争防止法二条一項一号、三条に基づき、被控訴人の営業表示の差止、被控訴人商品の包装等の印刷物からの被控訴人の営業表示の抹消及び被控訴人の商号登記の抹消登記手続をそれぞれ求める。

二 請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は不知。

2(一) 同2(一)の事実は否認する。

控訴人または控訴人の前身会社が使用してきた営業表示は、「お菓子のコトブキ」、「CONFECTIONERY KOTOBUKI」、「コンフェクショナリーコトブキ」、「おいしさ、愛。コトブキ」等であって、これらの構成要素の一部である「コトブキ」単独では、営業表示として機能していないというべきである。

(二) 同2(二)、(三)の各事実は不知。

(三) 同2(四)の事実は否認する。

昭和四六年当時、京都地区において控訴人のフランチャイズ店が一二店あったとしても、京都府の人口(平成六年統計で二五四万人)からすれば、控訴人の営業表示が一般顧客の間で周知であったことの根拠にはならない。

3 同3のうち、被控訴人会社が、控訴人主張のとおり設立されたことは認める。

「株式会社京都コトブキ」の表示は、被控訴人商品の包装箱裏面右下部分に貼付された小さな「責任票」の下欄に発売元として記載されているだけである。したがって、商品が陳列された状態では、顧客の目に留まることはなく、通常顧客が、商品を裏返して右責任票を見た上で商品を購入するということはない。

4 同4の事実は否認する。

(一)  控訴人の営業表示は、前記2(一)のとおり、「お菓子のコトブキ」、「CONFECTIONERY KOTOBUKI」、「コンフェクショナリーコトブキ」、「おいしさ、愛。コトブキ」等であって、「コトブキ」単独では営業表示として機能しておらず、普通名詞の寿(ことぶき)の片仮名またはローマ字表記である「コトブキ」または「KOTOBUKI」の部分のみでは識別力は弱く、その他の部分と一体としてみるべきであるところ、これらの各営業表示と、被控訴人の商号である「京都コトブキ」を比較すると、外観、称呼、観念のいずれの点からしても到底類似しているとはいえない。

(二)  被控訴人の商号のうち、「京都」は地名であるから識別力に欠けているというのは妥当でない。被控訴人は、「京都」の部分と「コトブキ」の部分を区別することなく、同じ大きさの同一形態の文字で一体的に表記しているのであるから、その外観、称呼、観念は「京都コトブキ」を一体として考察する必要がある。そうすると、仮に控訴人の営業表示が「コトブキ」であるとしても、「京都コトブキ」とは外観、称呼、観念のいずれの点からも類似しているとはいえない。

5 同5の事実は否認する。

控訴人と被控訴人の販売商品、販売場所、販売方法は、次のとおりそれぞれ全く異なっており、控訴人の商品と被控訴人の商品が混同されるおそれはなく、その営業主体が混同されるおそれもない。

(一) 販売商品の相違

販売商品としては、控訴人の販売商品が洋菓子(九四パーセント)、和生菓子(六パーセント)であるのに対し、被控訴人のそれは、観光土産菓子であって和菓子が主体であり、和生菓子はほとんど販売していない。

(二) 販売場所の相違

販売場所としては、控訴人はフランチャイズ店もしくは直営店で販売しているのに対し、被控訴人は観光地の土産販売店、ホテル、旅館の売店、キヨスク、ドライブイン売店で販売している。

(三) 販売方法の相違

販売方法としては、控訴人は「お菓子のコトブキ」あるいは「CONFECTIONERY KOTOBUKI」と店舗名として大きく表示された洋風店舗(洋菓子専門店)において販売しており、顧客は控訴人の店舗であることを認知した上で控訴人商品を購入している。また、顧客は、もっぱら通勤、通学途中の勤労者、学生及び買物目的の主婦等である。一方、被控訴人は、その商品を販売店の販売台に陳列し、当該観光地にちなんだ土産菓子としての商標で購入方をアピールし、商品見本を提示し、試食の機会を提供するなどしている。また、前記のとおり「京都コトブキ」の表示は商品の包装箱の裏面に記載してあるので、顧客は商品が被控訴人のものであることはほとんど認識せずに購入している。

したがって、一般消費者が控訴人及び被控訴人の商品を混同し、あるいはその営業主体を混同するおそれはない。また、控訴人の取引業者は、もっぱらフランチャイズ店またはこれになろうとする者であり、被控訴人の取引業者は、販売店(ホテル、土産物店)もしくは販売店になろうとする者であるから、これらの取引業者が控訴人と被控訴人の営業主体を混同するおそれがないことは明らかである。

6 同6の事実は争う。

三 抗弁(先使用の抗弁)

被控訴人は、昭和二七年四月二五日、商号を壽製菓株式会社、本店を鳥取県米子市角盤町一丁目九七番地として設立された会社の子会社である。

昭和三四年ころから壽製菓株式会社は観光土産菓子の製造・販売を手がけるようになり、これらの商品の販売は全国各地に設立した被告を含む子会社らが行っている。ちなみに、京都地区には、昭和三五年ころから、約二五の販売店舗があった。

被控訴人は平成二年四月二日に壽製菓株式会社の子会社として設立されたものであって、親会社の「寿」を訓読みした「ことぶき」の片仮名表示である「コトブキ」をその商号の一部に使用したものであり、不正競争防止法一一条一項三号の「他人の商品等表示が需要者の間に広く認識される前からその商品等表示と同一若しくは類似の商品等表示を使用するもの又は商品等表示に係る業務を承継した者」に該当する。

壽製菓株式会社及び被控訴人は、不正競争の目的なく「コトブキ」という表示を使用しているものである。

四 抗弁に対する認否

否認する。

被控訴人の主張は、自らの営業表示の使用の主張ではなく、親会社である壽製菓株式会社の先使用の主張であるので、理由がない。

被控訴人は、その営業表示を被告の親会社である壽製菓株式会社から承継したというが、被控訴人の親会社が使用していた営業表示は、「壽製菓株式会社」ないし「壽製菓」であり、右営業表示は被控訴人の営業表示である「京都コトブキ」とは同一性を欠くものである。

また、控訴人の営業表示である「コトブキ」は、昭和四六年当時から周知だったのであるから、同年以降、壽製菓株式会社が相次いで子会社に「コトブキ」の名を使用しているのは、不正競争の目的があるといえる。

〔引用部分終了〕

二 当審における当事者の主張

1 控訴人の予備的請求原因(原産地等誤認惹起行為)

(一) 控訴人は、昭和二二年三月に創業され、同四二年一〇月二三日に、菓子、パン、冷菓等の製造、加工、販売等を業として設立された会社であるが、年商は平成四年度には二一五億円に達し、京都地区の二四店舗を含み、店舗数も関東、関西を中心に約五三〇店舗を有する日本有数の菓子営業者であり、一方、被控訴人は、平成二年四月二日、本店を京都市山科区小山中ノ川町一三番地、商号を「株式会社京都コトブキ」、営業目的を観光土産品の販売等として設立され、この商号を用いて、京都地区で菓子を販売している。

(二) 被控訴人は、「株式会社京都コトブキ」の商号のもとに、「京都の名菓栗づくし」「京都名菓抹茶の詩」及び「名菓京都もみじ饅頭」を販売している。

(三) 前項の商品は、被控訴人の親会社壽製菓株式会社(本店 鳥取県米子市)が製造しているものであるにもかかわらず、これらに接した一般需要者は、「京都の名菓」栗づくし、「京都名菓」抹茶の詩、「名菓京都」もみじ饅頭に加えて、「株式会社京都コトブキ」の商号のゆえに、あたかもこれらが京都で製造された京都名菓であるかのように誤認させられるものである。

(四) 前記(二)の行為は不正競争防止法二条一項一〇号に違反する不正競争行為であり、控訴人は同業者としてそのイメージを減殺されるに加え、その営業上の利益を害されるおそれがある。

(五) よって、控訴人は、予備的に、不正競争防止法二条一項一〇号、三条に基づき、被控訴人に対して、被控訴人の営業表示の差止、被控訴人商品の包装等の印刷物からの被控訴人の営業表示の抹消及び被控訴人の商号登記の抹消登記手続をそれぞれ求める。

2 予備的請求原因に対する被控訴人の認否及び反論

(一) 認否

(1)  予備的請求原因(一)のうち被控訴人に関する主張は認めるが、その余は不知。

(2)  予備的請求原因(二)は認める。

(3)  予備的請求原因(三)のうち壽製菓株式会社が「京都の名菓栗づくし」「京都名菓抹茶の詩」及び「名菓京都もみじ饅頭」を製造していることは認めるが、その余は争う。

(4)  予備的請求原因(四)は争う。

(二) 反論

「名菓」の語義につき、広辞苑第四版では、「名のある菓子、すぐれた菓子」と説明されている。そうすると、「京都名菓」とは「京都で名のある菓子、京都ですぐれた菓子」の意であると解される。また、「京都の名菓」とは「京都の名のある菓子、京都のすぐれた菓子」の意であると解される。

「名菓京都もみじ饅頭」は「名菓」と「京都もみじ饅頭」に分けることができ、「京都もみじ饅頭」は紅葉の名所が京都市及びその周辺に数多くある(例えば、嵐山、竜田川、貴船等)ため、それに因んで「京都もみじ饅頭」と命名されたものであるが、この標章を付した饅頭が京都市及びその周辺若しくは京都府で製造されるか、その原材料が京都市及びその周辺若しくは京都府で生産されるものと一般需要者の多くが認識しているとは到底考えられない。そうすると、被控訴人の使用している「京都の名菓栗づくし」、「京都名菓抹茶の詩」及び「名菓京都もみじ饅頭」なる標章は、いずれも、これらの標章を付した商品の製造地若しくは原材料の生産地が京都市及びその周辺あるいは京都府であるとの認識を一般需要者のうちの多くの者に抱かせるものとはいえず、したがって、被控訴人がこれらの標章を付した商品を販売する行為は不正競争防止法二条一項一〇号の原産地誤認惹起行為には該当しないものと思料される。

控訴人は「京都」なる表示が付加されていない「栗づくし」「抹茶の詩」及び「もみじ饅頭」なる各標章を使用して菓子類を販売しておらず、被控訴人が「京都」なる表示を「栗づくし」、「抹茶の詩」及び「もみじ饅頭」なる各標章に付加したからといってそのことによって控訴人との販売競争上優位に立つものではなく、したがって、被控訴人が「京都」なる表示を付加した前記各標章を使用することによって控訴人の営業上の利益が害されるおそれなど存しないことは明らかである(言い換えれば、仮に控訴人が不正競争防止法二条一項一〇号、三条に基づき被控訴人に対し差止めを求めるとしても、その差止対象となる行為は営業表示「京都コトブキ」の使用ではなく、標章「京都の名菓栗づくし」、「京都名菓抹茶の詩」、「名菓京都もみじ饅頭」の使用であるべきである。)。

第三証拠<省略>

理由

一 当裁判所は、被控訴人がその本店所在地において、看板に「京都コトブキ」という営業表示を掲げて使用し、その販売に係る菓子の包装箱の裏面又は側面に貼られた責任票に「京都コトブキ」あるいは「株式会社京都コトブキ」の営業表示を使用することは不正競争防止法二条一項一号の不正競争行為(周知表示混同惹起行為)に該当するものと判断する。その理由は次項以下に示すとおりである。

二 控訴人の沿革、控訴人の営業表示とその周知性、被控訴人の営業表示、両者の営業表示の類似性について

原判決一六頁一行目から二九頁五行目までに記載されているとおりであるから、これを引用する。

〔付加、訂正の上、引用された原審判決部分〕

一  控訴人の沿革について

証拠(甲一、三ないし八、一七、二一、二五、証人冨田則也)によれば、次の事実が認められる。

1 寿本舗時代

(一)  控訴人の現相談役である細谷清は、昭和二二年三月、神戸市生田区北長狭通一丁目に、寿本舗を創業した。その後、寿本舗は、昭和二四年に株式会社に組織変更し、商号を「株式会社寿本舗」とした(以下、組織変更前の寿本舗及び株式会社寿本舗をあわせて「寿本舗」という)。

(二) 寿本舗の当初の資本金は一〇〇万円であったが、その後、同社は、資本金を昭和二六年に一八〇万円、同二八年に二七〇万円、同三〇年に八〇〇万円、同四〇年に八四〇〇万円に増資している。

(三) 寿本舗は、特約店販売網による販売方法を採用していたところ、特約店の数は、昭和三二年は一五店舗であったものが、次第に増加して大阪、兵庫の都市を中心に同四三年には一五〇店舗になった。

(四) 寿本舗の当初の売上げは、和菓子七五パーセント、アイスクリームを含む洋菓子が二五パーセントであったが、その後、食生活の洋風化に伴い、洋菓子を中心とする商品構成への転換を図り、その一環として、既存の特約店販売網を再編し、昭和四三年四月、フランチャイズシステムを正式採用した。

(五) その結果、寿本舗の年商は、昭和四一年に約一四億五〇〇〇万円、同四二年に約一八億六〇〇〇万円であったものが、同四四年には約二八億六〇〇〇万円と増加し、右販売網の再編は成果を見せた。

2 お菓子のコトブキ時代

(一) 寿本舗は、昭和四六年四月、商号を「株式会社お菓子のコトブキ」に変更した(以下「(株)お菓子のコトブキ」という)。

(二) (株)お菓子のコトブキは、昭和四六年には近畿地区を中心にフランチャイズ・チェーン店(以下「店舗」ともいう)約二〇〇店を有していたが、昭和四八年三月に東京地区、同五四年九月に中部地区、同五五年一〇月に東海地区にそれぞれ進出している。

(三) 京都地区へは昭和四六年に進出したが、同四七年には京都地区における店舗数は一二店舗となり、現在では約二四店舗となっている。

(四) (株)株お菓子のコトブキは、昭和五七年度には、資本金が七億〇五六〇万円に増資されている。

3 コンフェクショナリーコトブキ時代

(一)  控訴人は、昭和四二年一〇月二三日に、菓子、パン、冷菓等の製造、加工及び販売、レストラン、喫茶店の経営等を目的として設立された株式会社であるが、昭和五七年八月に(株)お菓子のコトブキの営業全部を譲り受けた(その結果、(株)お菓子のコトブキは、平成三年九月に、商号を「株式会社コトブキホールディング」と変更したが、同社は何ら営業活動はしておらず、いわゆる持株会社として機能しているにすぎない)。

(二)  控訴人は、その後も順調に業績を伸ばし、平成三年には国際事業部を設立して中国やベトナムへも進出し、年商も平成四年度には二一五億円に達するに至っている。

控訴人の平成七年度の総売上は一八五億円で、全国で一四位であり、うち洋菓子は一一五億円であり、その実績は八位である。

(三) また、現在、控訴人の店舗数は関西、関東を中心に約五三〇店舗となっており、販売内容としては洋菓子約八五パーセント、和菓子約一五パーセントである。

二  控訴人の営業表示及びその周知性について

1 営業表示の使用状況

証拠(甲三ないし一二、一四、一六、証人冨田則也)によれば、次の事実が認められる。

(一) 前記認定のとおり、寿本舗、(株)お菓子のコトブキ及び控訴人は、いずれも主に特約店あるいはフランチャイズ・チェーン店による販売活動をしてきたものであるが、寿本舗時代の販売店の看板等には、「寿本舗」という表示とともに「KOTOBUKI CONFECTIONERY」または「洋菓子のコトブキ」(「コトブキ」の文字は、別紙1と同様に太字でやや丸みを帯びた字体であり、「洋菓子の」は、別紙1の「お菓子の」と同様に、「コトブキ」の文字に比べると、これといった特徴もなく文字も小さい。)あるいは「コトブキ」(字体は別紙1と同様)等の表示が付され、また、配送用のトラックの車体の側面には、「寿本舗」の表示の上に、「お菓子のコトブキ」(別紙1のとおり)の表示が付されている。

(二) (株)お菓子のコトブキ時代になると、ピンクとオレンジと白を共通カラーとする一定のモデュールの店舗が見られ、その看板には「お菓子のコトブキ」(全体としては、別紙2のとおりであり、「コトブキ」の文字は、別紙1よりもさらに丸みを帯びた太字になっている。また、「お菓子の」と「コトブキ」の間に「KO」の字をイメージしたと考えられるマークが描かれているが、このマークは、「お菓子のコトブキ」の文字の上、あるいはその文字とは別に表示されている場合もある。)という表示が付されるようになった。また、当時の配送用トラックの車体の側面には、店と同様「お菓子のコトブキ」(別紙2)の表示が付されていた。

(三) そして、控訴人(コンフェクショナリーコトブキ)の時代になると、(株)お菓子のコトブキ時代のピンクとオレンジと白を共通カラーとしたモデュールの店舗の他にも、店舗のスペース、立地条件及び周囲の環境等に合わせた形態の販売店が登場するようになった(控訴人は、これらの販売店を「都市型」と「郊外型」に分けている)。そして、これらの販売店の看板には、「CONFECTIONERY KOTOBUKI」(全体としては別紙3のとおりであり、「KOTOBUKI」の文字の方が大きく描かれている。)、「コンフェクショナリーコトブキ」(やや丸みのある文字で、「コトブキ」の文字は大きく書かれている。)、「コトブキ」(字体は別紙4のとおりであり、別紙1や2に比べると字も細くなり、左に傾いた斜体となっている。その左横にケーキをイメージしたのマークが表示されている。)、あるいは「おいしさ、愛。コトブキ」(全体としては別紙5のとおりであるが、「コトブキ」の字体は別紙4とほぼ同じであり、「おいしさ、愛。」の部分は、「コトブキ」の表示よりも小さな字で表示されている。また文字の左横にのマークが表示されている。)といった表示が付されている。

(四) また、いずれの時代においても、その会社案内(フランチャイズ・チェーン店勧誘用のパンフレットを含む)には、控訴人を「コトブキ」、または控訴人のフランチャイズ・チェーン店を「コトブキ(の)FC店」とする表現が頻繁に使用されている。

(五) さらに、昭和四六年一〇月には日本経済新聞に、昭和四九年ころには雑誌「近代経営」に、それぞれ控訴人を「コトブキ」と称した記事が掲載され、昭和四五年から同四六年ころの菓子業界の業界紙「製菓時報」は控訴人を「コトブキ」、または控訴人のフランチャイズ・チェーンを「コトブキ・チェーン」と称して記事を掲載している。

2 宣伝活動等

証拠(甲三ないし一七、証人冨田則也)によれば、次の事実が認められる。

(一)  控訴人は、フランチャイズシステムを採用した昭和四三年ころから、宣伝費を多額に費やして宣伝活動を行うようになった。

控訴人の宣伝活動の方法としては、テレビ(関西テレビ、朝日放送、毎日放送、読売テレビ、近畿テレビ)、ラジオ(ラジオ関西、朝日放送、ラジオ大阪)、新聞(神戸新聞、朝日新聞、京都新聞、いずれも単発出稿)、雑誌(週刊読売、主婦と生活、ノンノン、アンアン等)、新規開店する店の周辺の市町村へのチラシ、タレントによるサイン会などであった。

昭和四三年当時、これらの宣伝に要した費用は、約三億円であり、その後も増加の一途をたどっている。

(二)  控訴人は、フランチャイズシステムの採用及びその急速な展開により、菓子業界の中でも注目される存在であった。特に、昭和四六年に、京都を地元とする株式会社タカラブネとの間で、タカラブネの販売店が控訴人とフランチャイズ契約を締結したことから訴訟となり、このことは京都新聞等により大きく報じられた。

(三) また、控訴人は、昭和四七年六月から一〇月まで、京都進出の一周年記念としてプレゼントセールを行い、そのころ京都新聞に、当時の一二店舗の場所等も記載したそのセールの広告を掲載した。

3  控訴人の営業表示と周知性

(一) 右の事実を前提に、控訴人の営業表示とその周知性について検討するに、控訴人は、片仮名表記の「コトブキ」が自己の営業表示であり、右営業表示が京都地区はもとより全国的にも周知されていると主張し、被控訴人は、「コトブキ」は、普通名詞でありそれのみでは識別力は弱く、したがって、「お菓子の」、「コンフェクショナリー」等の言葉等と結合することによって初めて識別力が生ずると主張している。

確かに「コトブキ」という言葉自体は、寿(ことぶき)すなわち「めでたいこと」などを意味する普通名詞であり、その言葉自体の識別力はさほど強いものではない。

(二) しかしながら、前記1のとおり、控訴人は、長年にわたり「コトブキ」単独の表示、または「洋菓子の」、「お菓子の」、「コンフェクショナリー」、あるいは「おいしさ、愛。」の文字またはケーキをイメージしたマークを付けた「コトブキ」を営業に使用してきたところ、「コトブキ」にこれらの言葉を付して看板等に表示する場合にも、「コトブキ」の部分を引き立たせるように表示の大きさ及び字体が工夫されていること、これらの表示のうち「洋菓子の」、「お菓子の」、「コンフェクショナリー」等の部分は、単に控訴人の営業内容の説明等にすぎず、それ自体で特に識別機能を有するものではないこと、「コトブキ」以外にどのような表示を使用するかは、時代の違いとともに、各店舗によっても違いがみられ、その立地条件または外観等によって使い分けられていること、会社案内においても控訴人は自己を「コトブキ」とする記述を頻繁に使用しており、新聞、雑誌等でも控訴人は「コトブキ」と称されていることがそれぞれ認められる。

(三) さらに、前記2のとおり、控訴人は、昭和四三年ころから積極的に宣伝活動を展開してきたことが認められるところ、右の宣伝の例として「お菓子の」を付した「コトブキ」(「お菓子のコトブキ」の字体等は、別紙1とほぼ同じ)の表示をテレビ、新聞、雑誌、チラシによる宣伝等にも使用していることも認められる(甲六、一七)。

(四) そうすると、「コトブキ」の表示は、寿本舗の時代から、多少の字体等の変動はあるものの、常に、看板等に掲げられ、あるいは宣伝活動に使用されてきた営業表示の要部をなすものと認めるのが相当である。

(五) これらの事実に、前記一の京都への進出を含めた控訴人のこれまでの発展状況を総合すると、遅くとも昭和四六、七年ころには、京都において、「コトブキ」を要部とする控訴人の営業表示は、菓子業界に属する営業主体としては控訴人を示すもの、すなわち、控訴人の営業表示として、周知であったと認めることができる。

なお、前記1のとおり、控訴人は「CONFECTIONERY KOTOBUKI」等のローマ字表記の表示も使用していることが認められるが、これらは「コトブキ」の営業表示と併用していると認められるから、右認定を左右するものではない(甲三)。もっとも、右のようなローマ字表記や前記の付加された文字やマークは、顧客誘因性の強いフランチャイズ・チェーンの看板などにほとんど例外なく使用されており、その使用状況をも考慮すれば、需要者において一体として印象づけられ記憶される側面も否定できないのであり、被控訴人の営業表示との混同を検討するにあたっては留意されなければならない。ちなみに、控訴人自身、「コトブキ」ブランド(甲三)と称したり、ブランドを「コンフェクショナリーコトブキ」(甲五)と表示したりしている。

三  被控訴人の営業表示について

被控訴人は、本店所在地において看板に「京都コトブキ」の営業表示を掲げて使用し、その販売にかかる菓子の包装に(株式会社)「京都コトブキ」の営業表示を使用していることが認められる(甲二、一八ないし二〇、検甲一及び二、検乙五ないし七、一一及び一二、一七及び一八)。

四 両者の営業表示の類似性について

そこで、「コトブキ」を要部とする控訴人の営業表示と被控訴人の営業表示である(株式会社)「京都コトブキ」とを比較すると、被控訴人の営業表示のうち、地名を表示する「京都」の部分は、右営業表示が使用された結果広く認識されるに至った等の特別の事情がない限り、「コトブキ」という部分に比して注意を引くことは少ないといえるところ、そのような特別の事情は認められない(商号のうち、「株式会社」は、単に会社の種類を表すのみである)。そうすると、「京都コトブキ」の要部は「コトブキ」であり、これは控訴人の営業表示の要部と同一である。

したがって、両表示を現実の使用状況と離れて、それ自体において比較する限り、両者は、全体としてみても、外観、称呼のいずれの点からも類似性を有すると認めることができる。

〔引用部分終了〕

三 「混同のおそれ」の有無について

1(一) 不正競争防止法二条一項一号にいう「混同を生じさせる行為」には、他人の周知の営業表示と同一又は類似の表示を使用する者が、自己と右他人とを同一営業主体と誤信させる行為のみならず、両者間にいわゆる親会社、子会社の関係や系列関係などの緊密な営業上の関係が存するものと誤信させる行為(いわゆる広義の混同)をも包含し、かつ、右他人の周知の営業表示と同一又は類似の表示を使用する者と右他人との間に競争関係があることは必ずしも必要ではなく(最高裁判所昭和五八年一〇月七日第二小法廷判決・民集三七巻八号一〇八二頁、最高裁判所昭和五九年五月二九日第三小法廷判決・民集三八巻七号九二〇頁各参照)、また、商品の販売形態が異なるとしてもそのことによって当然に出所を混同誤認するおそれがない、とはいえないと解すべきである。

(二) しかるところ、控訴人と被控訴人の各商品及びそれらの販売場所、販売形態など販売活動の状況についてみるに、原判決二九頁七行目から三三頁四行目までに記載されているとおりの事実が認められる。

〔付加、訂正、削除の上、引用された原審判決部分〕

1  控訴人商品の販売形態等

控訴人の商品構成、販売形態は、先にもみてきたところであるが、さらに、証拠(甲三、五、六、三二の1、2、三三の1ないし5、検甲五・七の各1ないし4、八の1ないし6、一〇ないし一三、一四・一五の各1、2、一八の1ないし16、一九の1ないし24証人冨田則也)によれば、以下の事実も認められる。

(一)  控訴人は、そのフランチャイズ・チェーンの勧誘パンフレット(甲六)にも記載されているように、一流菓子店としての個性と特色を強く打ち出し、スーパーでは買えない独自の魅力を持った商品の開発を目指しており、高級化志向に対応して、「味」のファッション化を志向するなど、販売商品の大半を占めるショートケーキやデコレーションケーキなどの洋菓子を中心に、お菓子の味と品質の高さを売り物にし、その商品の箱や包装などにも高級感のあるものを使用している(甲五)。

右のほか、控訴人は、和菓子(「花野点」、和三盆糖入り「ようかん」など)も販売している(甲二三、検甲一八の1ないし16、一九の1ないし24)。

(二)  控訴人は、昭和四三年にフランチャイズシステムを採用して以来、フランチャイズ・チェーン店の拡大に取り組み、それによって業績を拡大してきたものであり、主としてフランチャイズ・チェーン店で商品の販売を行っているほか、イズミヤ、ジャスコ、ライフ、ダイエー、イトーヨーカ堂、サティ、コープなどのスーパーマーケット内の店やドライブイン(洲本市納九七番地の一一所在)においても販売しており、ホテル内でも販売している。

(三)  とりわけ控訴人のフランチャイズ・チェーン店について言えば、前記のような商品志向に合わせ、主婦や若い女性の顧客層に向けて、しゃれたセンスで定評のある洋菓子専門店といったイメージを目指し、店内は白を基調とした洗練された統一的なデザインの下に、スペース、立地条件、周囲の環境に応じて、都市型、郊外型などに分け、専門家がより意匠をこらしたハイグレードな店舗デザインをし、ショッピングセンター内の店舗についても、コンパクトで効率のよい設計をすることを方針としている(甲三、五)。

(四) これらの店においては、「コンフェクショナリーコトブキ」、「CONFECTIONERY KOTOBUKI」(別紙3)、「コトブキ」(別紙4)といった表示が掲げられ、控訴人の店であることが一目で分かるようになっている(甲三、五、六)

2  被控訴人商品及びその販売形態等

証拠(甲一八ないし二〇、検乙一ないし二九、証人美舩金利)によれば、以下のような状況が認められる。

(一)  被控訴人の商品は、観光土産菓子であり、饅頭等の和菓子が中心である。そして、商品の入った箱もその商品に合わせた模様や観光地をあしらった図柄模様の包装紙で包まれ、その表に観光地名を使った「京都の名菓 栗づくし」「京都名菓 抹茶の詩」「名菓 京都 もみじ饅頭」といった商品名が表示されている。

(二)  被控訴人は、主にホテルの売店、観光地の土産物店、JR駅構内のキヨスクなどにおいて、販売活動を行っており、直営店での販売はされていない。そして、それらの販売店において、被控訴人の商品は、特別に被控訴人の販売コーナーなどを設けることなく、他社の土産品等と共に陳列台に積み上げて並べられ、一番上にガラス見本を乗せて、商品がどういう内容の菓子であるかが分かるようにし、店によっては試食ができるようにしている。

(三)  被控訴人商品には、包装された箱の裏面または側面の責任票に一文字の大きさが約三ミリないし四ミリ四方で(株式会社)「京都コトブキ」と記載されている以外には、陳列コーナーにも商品にも被控訴人の商品表示はされていない。(※)

(四) したがって、観光客が大半を占めるといえる顧客は、商品名を見て、または、ガラス見本を見て、あるいは試食をして、商品を選択することが多いと推定される。

〔引用部分終了〕

2 右認定のとおり控訴人の営業内容は洋菓子の販売を中心とするものであって、かつ、特約店あるいはフランチャイズ・チェーン店による販売活動を展開しているところ、「コトブキ」の周知性とも相俟って、その営業表示は洋菓子と強く結び付いて一般消費者や需要者に認識されているものと認められる。しかしながら、他方、右のとおりであるとしても、控訴人の商品といえば、洋菓子に限られ、和菓子は控訴人のものではないとの認識が一般消費者や需要者の間に深く、広く浸透しているということを認めさせるに足りる証拠もない。

そして、洋菓子も和菓子もともに同じ菓子類であって密接に関連する品目であるから、単に洋風か和風か、あるいは高級洋菓子か観光土産用の菓子かの差異で、両者の出所が混同されるおそれがないとも言い難い。また、これらの商品を購入する顧客についていうと、スーパーマーケットやフランチャイズ・チェーン店で購入する顧客と駅構内のキヨスクやホテルの売店で購入する顧客との間に、顧客層の差異と言える程の顕著な違いがあるとは解されず、購入の動機が多分に機会的なものに過ぎないという差異があるにとどまる(高級洋菓子店の顧客も、もとより旅行客の立場になり得るものであって、その日常の商品志向が固定していて土産物店で観光土産を購入する際にも右商品志向に左右されおよそ土産用として販売されている和菓子を購入する余地がないとは断定することができない。)と解するのが相当である。

3 そもそも不正競争防止法二条一項一号にいう「混同を生じさせる行為」とは、一般世人をして誤認する危険を生ぜしめることをいい、現実に誤認の事態が発生したことを必要としないと解すべきであるが、原審証人冨田則也の、現実の混同事例が存在した旨の証言(JR構内で販売されている被控訴人の商品を購入した知人が、被控訴人の商品の包装に貼付されている被控訴人の営業表示を見て、当該商品を控訴人の商品だと思い、控訴人はJR構内でも右商品を販売しているのかどうかについて問い合わせてきた旨の証言)も、消費者調査に関する調査報告書(甲二七)の内容(駅の売店で「京都コトブキ」製造の和菓子を売っているとき、その「京都コトブキ」という会社は「コトブキ」の子会社、あるいは、関連会社かもしれないと思うかという問いに対して、<思う>と回答したものが、二五九名中一七八名で、六八・七%を占めた旨の調査結果。)と照らして考えてみると、首肯し得ないではないというべきである。

4 被控訴人は「本店所在地において看板表示「京都コトブキ」を使用しているが、同所には倉庫(検甲一、二)があり、被控訴人の事務所はこの倉庫の中にある。被控訴人は店舗を回って注文を聞き、あるいは電話で注文を取り、倉庫のなかに在庫のないものについては米子の本社のほうに注文して、被控訴人の倉庫に一括して納入してもらい、被控訴人のほうで各店舗へ配送する。したがって、一般消費者はもちろん取引業者は被控訴人の事務所へ立ち寄ることはない。ワゴン車は被控訴人の倉庫から取引先店舗へ被控訴人の商品を運搬する際に使用されているものであって、「京都コトブキ」なる営業表示が一般消費者の目に触れることはない。また、被控訴人販売に係る菓子の包装された箱の裏面又は側面の責任票(検乙一二、二四)に一文字の大きさが約三ないし四ミリメートル四方で「株式会社京都コトブキ」なる表示が付されているが、その使用形態からすると、右営業表示もほとんど一般需要者の目にもとまることがないので、被控訴人販売に係る商品に接する取引者及び一般需要者において被控訴人と控訴人を同一営業主体又は両者の間に親会社、子会社の関係若しくは関連会社などの関係が存するものと誤認・混同するおそれはない。」と主張する。

しかしながら、本店所在地に看板として「京都コトブキ」なる営業表示を掲げたり、営業車にこれを表示している以上、その営業表示は被控訴人と取引する専門業者のみならず、潜在的な最終需要者の目に触れる機会があり、これが需要者の目に触れた場合、営業表示の混同誤認が生ずるおそれがあるというべきであるし、また、当該商品が人によって食されるものであることから、平均的な一般消費者や需要者を基準として考えてみた場合においても、店頭に置かれた商品を購入する際、責任票に記載された賞味期限ないし品質保持期限を確認の上購入するということも十分考えられるのであって、購入後商品の出所が他に告げられたり贈答に供されるということもあり得ることである。なお、責任票が食品衛生の観点から行政取締法規上その貼付が義務付けられているとはいえ、当該食品を販売する業者としての責任の帰属主体を明らかにすることによって間接的に購入意思決定の一要因にもなり得るものであるから、責任票の法的性格やそこに記載された営業主体を示す文字が小さいということのみをもって平均的な一般消費者や需要者による混同のおそれを否定する理由にはならないというべきである。

5 結局、被控訴人がその営業表示である「京都コトブキ」を使用する行為は、あたかも控訴人と業務上、組織上関連するものとの認識を一般消費者や需要者に生じさせ、営業主体の混同誤認を惹起するおそれがあると解するのが正当である。

さらに、不正競争防止法二条一項一号にいう混同の事実が認められる場合には特段の事情がない限り営業上の利益を害されるおそれがあるものというべきである(最高裁判所昭和五六年一〇月一三日第三小法廷判決・民集三五巻七号一一二九頁)ところ、本件において右特段の事情の存在を認めるに足りる証拠はない。

四 先使用の抗弁

控訴人の営業表示(「コトブキ」)は、前認定のとおり、遅くとも昭和四六、七年ころには京都市及び同府下において周知であったと認めることができるところ、被控訴人は平成二年四月二日に壽製菓株式会社の子会社として設立されたものであり、その営業表示である「京都コトブキ」は被控訴人の親会社が使用していた「壽製菓株式会社」ないし「壽製菓」との間に営業表示としての同一性ないし類似性があるとは認め難いから、被控訴人の抗弁は既にこの点において理由がないというべきである。

五 以上の次第であるから、控訴人の請求は理由があり、これと結論を異にする原判決は失当である。

よって、原判決を取り消し、訴訟費用の負担につき民訴法六七条二項、六一条を適用し、仮執行宣言は付さないこととし、主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例